第二章

南蛮物と和物

6.南蛮服飾

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朗読者:橋野真理絵

6.南蛮服飾

南蛮物の中でも、南蛮服飾は、殊に好奇と憧れの的であった。天正十九年、アレッサンドロ・ヴァリニァノが天正遣欧使節一行(天正遣欧使節肖像画 一五八六年 ドイツ・アウグスブルク市印行)を伴い、ポルトガルのインド副王よりの書状(国宝 ポルトガル国インド副王信書 豊臣秀吉あて)を携えて、秀吉に謁すべく京都へ来た時、彼等の通る道筋は、数多の見物人で埋められたが(ルイス・フロイス『九州三侯遣欧使節記』)、それは何よりも、一行の華やかな立派な服装に魅せられたがためであった。されば、いわゆる南蛮屛風の画家たちも、南蛮人の服装を飽くことなく丹念に画き続けたのであった(重要文化財 狩野内膳筆 『南蛮屏風』 右隻 部分)。

重要文化財 綴織鳥獣文陣羽織 伝豊臣秀吉所用
高台寺所蔵

南蛮衣服の中には、上杉神社に所蔵される伝上杉謙信着用の赤地牡丹唐草文ビロードマントや、支倉常長の将来品でローマ法王の祭服と伝えるビロード地花唐草文様祭服のように、既製品を輸入したものもあるが、生地を輸入して日本で仕立てたものも沢山あった。その一例として、伝豊臣秀吉着用の鳥獣模様陣羽織を掲げた。ペルシアで織られた絹綴れの敷物を、陣羽織に仕立てたと推定される。二重の界線で囲まれた大小の区劃を、左右対称に規則正しく並べ、その内外に孔雀、獅子、虎、鹿などの鳥獣と草花を、これも規則正しく配してある。華麗な模様といい、絢爛たる色彩といい、桃山という時代の雰囲気によくマッチし、当代の人々の好尚に適ったものと思われる。これと同様、南蛮物の生地を用いて仕立てた陣羽織の優品に、仙台市博物館蔵の黒羅紗地緋羅紗山形模様陣羽織、紫羅背板地水玉模様陣羽織などがある。

南蛮人、南蛮船または南蛮物を、意匠にとり入れたものもいろいろ作られた(南蛮人漆絵口薬入)。衣裳についていえば、前田育徳会蔵の花色地色絵南蛮船模様縫箔などが、その例である。

朗読者

橋野真理絵

花習会会員―意味を理解するのに、大きな声を出して口にするだけでも、世界観が現れると櫻香さんから言われました、難しかったが繰り返し読んでみたいです(真)

第1部

桃山の美とこころ
はしがき
はしがき
第一章
公家と武家
1.秀吉の松丸殿あて消息
2.格外の書と破格の書
3.三藐院の団欒の歌
4.秀吉と三藐院
第二章
南蛮物と和物
5.唐物と南蛮物
6.南蛮服飾
7.片身替詩歌文様の能装束
8.和物の伝統の継承発展
第三章
花と雪間の草
9.金碧障壁画
10.「冷え」の美
11.雪間の草の春
第四章
豪壮と優婉
12.唐獅子図屛風
13.唐獅子とは
14.花下遊楽図屛風
第五章
閑寂と変化
15.長次郎の「大黒」と織部の「三角窓」
16.早船茶碗の文
17.利休における閑寂と変化
18.織部焼
第六章
懐古と求新
19.異国的なるものへの憧憬
20.南蛮画
21.伊勢物語絵、源氏物語絵
第七章
キリシタンと禅
22.キリスト教と禅
23.キリシタン美術
24.禅の美術
第八章
天下人と民衆
(沈静と躍動)
25.天下人の能と民衆の風流踊
26.豊国社臨時祭と祭礼図屛風
27.沈静の美、躍動の美
第九章
御殿と草庵
28.宇治橋三の間の名水から竹生島へ
29.都久夫須麻神社本殿
30.高台寺の時雨亭と傘亭
31.高台寺茶亭、都久夫須麻神社本殿と伏見城
第十章
金碧と水墨
32.金碧画の平板と水墨画の奥行
33.現実超越の水墨画と現実肯定の金碧画
34.画道における楓図、松林図の位置
35.楓図と松浦屛風ならびに花下遊楽図との比
第十一章
花紅葉と
冷え枯るる
36.高雄観楓図と鬼桶水指
37.なまめかしき「浦のとまや」―冷えたる風体
38.冷え枯るる風体
第十二章
遠心と求心
39.桃山時代の遠心と求心
40.妙喜庵 待庵
41.東山大仏殿
42.秀吉の遠心と利休の遠心
第十三章
秀吉のわびと
利休のわび
北野大茶湯をめぐって
43.壮大・豪奢への志向とわびへの志向
44.秀吉と利休のわびへの志向
45.冷えわびとなまわび
第2部
倉澤先生に聞く
織部に「閑寂」を忍ばせる
信長のこと
家康と桃山のこと
あとがき
年表
第一部図版目録