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朗読者:杵屋喜尚
24.禅の美術
禅美術についても、右に述べたことは勿論あてはまる。禅美術は、外面的には禅美術であるが内面的にはそうでないもの、外面的には禅美術でないが内面的にはそうであるもの、外面的にも内面的にもそうであるもの、の三類に分つことができる。
図に掲げた古渓宗陳の「龐蘊馬祖問答」は、外面的にも内面的にも禅美術であるものの一例である。
林鐘は陰暦六月の異称。「一口に西江の水を吸尽し」というところ、夏の茶席の床にこれを掛ければ、大いなる涼味をさそうであろう。
この墨蹟には、自己本来の面目の、任運騰々のはたらきがあると、私は観ずる。とはいうものの、円悟克勤(重要文化財 円悟克勤墨蹟(虎丘紹隆に付する法語))や虚堂や宗峰妙超(大燈国師)(重要文化財 宗峰妙超筆 白雲偈頌)、近くは良寛や白隠の墨蹟などと較べると、機鋒の豊かさにおいて一歩譲るところのあるのは、やはり認めざるを得ない。
この墨蹟は利休所持であると伝える。その伝えの真偽は確認できないが、数ある古渓墨蹟の中で出色の出来栄えである点からして、また書かれている語の内容からして、利休が所持したというにふさわしい墨蹟ではある。そのことについては、かつて述べたことがあるので(『茶道雑誌』昭和五十一年四・五月号「古渓宗陳と千利休」)、ここではこれ以上ふれない。
図に掲げたのは、同じく古渓書と伝える「利休居士号賀頌」である。
この掛幅を収めた箱の蓋内に、大竜宗丈の筆で「利休居士号頌 雖有誤字落句 古渓真蹟無疑」とある由であるが、事実、「禅通」は「神通」の間違いであり、かつ賀頌の第二句「飢来喫飯遇茶々」が落ちている。このような誤字落句があり、また字配りにもゆがみがあるにもかかわらず、というよりはむしろ、そうであるから反って、この書には、任運騰々たる面白味があるのである。
最後に禅の絵の一例として、宮本二天(武蔵)のものを掲げよう。重要文化財 宮本武蔵(二天)筆 鵜図・重要文化財 宮本武蔵(二天)筆 枯木鳴鵙図・重要文化財 宮本武蔵(二天)筆 芦雁図屏風 左隻 部分は、外面的には禅画ではないが内面的にはそうであるものに属し、重要美術品 宮本武蔵(二天)筆 蘆葉達摩図は、内外両面とも禅画であるものに属する。
朗読者
杵屋喜尚
長唄演奏家/四世杵屋喜多六に師事。青陽会、吉住会。むすめかぶき公演「鏡獅子」6都市8公演、「勧進帳」「舟弁慶」、女流のみの作品に長唄唄方で出演。-朗読が「声」をさまざまに使うことで、鮮やかに場面を表出させることが出きると感じました。書かれている文字、一つずつ気をぬかないで語ることが新鮮に思います。
第1部
- 桃山の美とこころ
はしがき - はしがき
- 第一章
公家と武家 - 1.秀吉の松丸殿あて消息
- 2.格外の書と破格の書
- 3.三藐院の団欒の歌
- 4.秀吉と三藐院
- 第二章
南蛮物と和物 - 5.唐物と南蛮物
- 6.南蛮服飾
- 7.片身替詩歌文様の能装束
- 8.和物の伝統の継承発展
- 第四章
豪壮と優婉 - 12.唐獅子図屛風
- 13.唐獅子とは
- 14.花下遊楽図屛風
- 第六章
懐古と求新 - 19.異国的なるものへの憧憬
- 20.南蛮画
- 21.伊勢物語絵、源氏物語絵
- 第七章
キリシタンと禅 - 22.キリスト教と禅
- 23.キリシタン美術
- 24.禅の美術
- 第八章
天下人と民衆
(沈静と躍動) - 25.天下人の能と民衆の風流踊
- 26.豊国社臨時祭と祭礼図屛風
- 27.沈静の美、躍動の美
- 第十一章
花紅葉と
冷え枯るる - 36.高雄観楓図と鬼桶水指
- 37.なまめかしき「浦のとまや」―冷えたる風体
- 38.冷え枯るる風体
- 第十二章
遠心と求心 - 39.桃山時代の遠心と求心
- 40.妙喜庵 待庵
- 41.東山大仏殿
- 42.秀吉の遠心と利休の遠心
- 第十三章
秀吉のわびと
利休のわび
北野大茶湯をめぐって - 43.壮大・豪奢への志向とわびへの志向
- 44.秀吉と利休のわびへの志向
- 45.冷えわびとなまわび