第二部

桃山と信長のことなど

信長のこと

信長のこと

『信長公記』第30逸話4「踊り御張行の事」に信長が津島に行って風流踊りをしたことが載っています。弘治三年七月の項「上総介殿は天人の御仕立に御成り候て小鼓を遊ばし、女おどりをたされ候。津島にて堀田道空庭にて一おどり遊ばし、それより清洲へ御帰りなり」

堀田道空は津島の豪族。踊った場所は堀田家の庭。この記載からは祭を見たかどうかは分からないが、信長が津島天王祭を見たと書いているのは津島市所蔵の『大祭筏場車記録』。弘治四年の項。「上総介様は天王橋の上で御見物され、女房たちは橋の近くの桟敷に座られた」との記述もあります。

『尾張名所図会』には、絵の右上におどる女性が見られる。これは、信長であろう、と言われている。

このような姿が記録に遺され、彼らの生き生きとした姿を想像できる。遺された品や、つないできた品の数々、その数々から、創造した人、それをつないだ人を思わせるばかりでなく、これまでどれだけ多くの人が歓声を上げて眺めたのだろうか、と思わせます。思いのこめられた品や形は「かつて」の人とともに今を過ごすことができるものです。

第1部

桃山の美とこころ
はしがき
はしがき
第一章
公家と武家
1.秀吉の松丸殿あて消息
2.格外の書と破格の書
3.三藐院の団欒の歌
4.秀吉と三藐院
第二章
南蛮物と和物
5.唐物と南蛮物
6.南蛮服飾
7.片身替詩歌文様の能装束
8.和物の伝統の継承発展
第三章
花と雪間の草
9.金碧障壁画
10.「冷え」の美
11.雪間の草の春
第四章
豪壮と優婉
12.唐獅子図屛風
13.唐獅子とは
14.花下遊楽図屛風
第五章
閑寂と変化
15.長次郎の「大黒」と織部の「三角窓」
16.早船茶碗の文
17.利休における閑寂と変化
18.織部焼
第六章
懐古と求新
19.異国的なるものへの憧憬
20.南蛮画
21.伊勢物語絵、源氏物語絵
第七章
キリシタンと禅
22.キリスト教と禅
23.キリシタン美術
24.禅の美術
第八章
天下人と民衆
(沈静と躍動)
25.天下人の能と民衆の風流踊
26.豊国社臨時祭と祭礼図屛風
27.沈静の美、躍動の美
第九章
御殿と草庵
28.宇治橋三の間の名水から竹生島へ
29.都久夫須麻神社本殿
30.高台寺の時雨亭と傘亭
31.高台寺茶亭、都久夫須麻神社本殿と伏見城
第十章
金碧と水墨
32.金碧画の平板と水墨画の奥行
33.現実超越の水墨画と現実肯定の金碧画
34.画道における楓図、松林図の位置
35.楓図と松浦屛風ならびに花下遊楽図との比
第十一章
花紅葉と
冷え枯るる
36.高雄観楓図と鬼桶水指
37.なまめかしき「浦のとまや」―冷えたる風体
38.冷え枯るる風体
第十二章
遠心と求心
39.桃山時代の遠心と求心
40.妙喜庵 待庵
41.東山大仏殿
42.秀吉の遠心と利休の遠心
第十三章
秀吉のわびと
利休のわび
北野大茶湯をめぐって
43.壮大・豪奢への志向とわびへの志向
44.秀吉と利休のわびへの志向
45.冷えわびとなまわび
第2部
倉澤先生に聞く
織部に「閑寂」を忍ばせる
信長のこと
家康と桃山のこと
あとがき
年表
第一部図版目録