第二部

織部に「閑寂」を忍ばせる

織部に「閑寂」を忍ばせる

2020年11月1日、名古屋市「東山荘」にて催された倉澤行洋先生の講演を拝聴させて頂きました。その際のお呈茶の席に、私も自作の織部・黒織部等の器をいくつか使っていただいたのですが、水屋を訪れられた倉澤先生に茶碗の講評を頂く機会を得ました。

先生は静かにひとつひとつの茶碗を手に取られ、ゆっくりと見られた後、「もう少し高台を丁寧にされると良いですね。」と仰いました。高台づくりは、茶碗を作る工程の中で一番好きな部分で、私としては時間を掛けて丁寧に作り上げたつもりだったのですが、自分勝手な土いじりの楽しさに酔った作陶を見透かされ、一遍に恥ずかしくなってしまいました。口づくりについても同様の事を仰られました。造形の変化や面白みを追求するだけの、作り手の独りよがりを窘められたのだと感じました。

そして「織部焼きにはどこかに利休が隠れていなくてはいけません」という言葉を頂きました。器に「閑寂」を求めた千利休、弟子として「変化」の道筋に発展させた古田織部。それぞれの指導の下に生まれた作行きが現代まで受け継がれていますが、その様式の奥にある思想的な部分を汲み取らないといけませんよ、と。


一通り講評を頂いた後、先生は黒織部の一碗を手に取られ「このお茶碗で一服頂いてみたいですね」と言ってくださいました。「ものの良い悪いというような事とまた別として、『使ってみたい』と感じさせるというのは大変に大事な事です。そのまま励まれると良いでしょう。」

ホっとした様な、嬉しい気持ちで一杯となりました。

作り手としては、どうしても素材や装置、技術的な部分、そして自らの表現に気が行きがちとなってしまいますが、先生との対話の中で、心の在り様が大切であるという事を教えて頂きました。今はまだ足りませんが、より理解を深めて、利休の「閑寂」がチラリと垣間見えるような織部を焼きたいと思います。

第1部

桃山の美とこころ
はしがき
はしがき
第一章
公家と武家
1.秀吉の松丸殿あて消息
2.格外の書と破格の書
3.三藐院の団欒の歌
4.秀吉と三藐院
第二章
南蛮物と和物
5.唐物と南蛮物
6.南蛮服飾
7.片身替詩歌文様の能装束
8.和物の伝統の継承発展
第三章
花と雪間の草
9.金碧障壁画
10.「冷え」の美
11.雪間の草の春
第四章
豪壮と優婉
12.唐獅子図屛風
13.唐獅子とは
14.花下遊楽図屛風
第五章
閑寂と変化
15.長次郎の「大黒」と織部の「三角窓」
16.早船茶碗の文
17.利休における閑寂と変化
18.織部焼
第六章
懐古と求新
19.異国的なるものへの憧憬
20.南蛮画
21.伊勢物語絵、源氏物語絵
第七章
キリシタンと禅
22.キリスト教と禅
23.キリシタン美術
24.禅の美術
第八章
天下人と民衆
(沈静と躍動)
25.天下人の能と民衆の風流踊
26.豊国社臨時祭と祭礼図屛風
27.沈静の美、躍動の美
第九章
御殿と草庵
28.宇治橋三の間の名水から竹生島へ
29.都久夫須麻神社本殿
30.高台寺の時雨亭と傘亭
31.高台寺茶亭、都久夫須麻神社本殿と伏見城
第十章
金碧と水墨
32.金碧画の平板と水墨画の奥行
33.現実超越の水墨画と現実肯定の金碧画
34.画道における楓図、松林図の位置
35.楓図と松浦屛風ならびに花下遊楽図との比
第十一章
花紅葉と
冷え枯るる
36.高雄観楓図と鬼桶水指
37.なまめかしき「浦のとまや」―冷えたる風体
38.冷え枯るる風体
第十二章
遠心と求心
39.桃山時代の遠心と求心
40.妙喜庵 待庵
41.東山大仏殿
42.秀吉の遠心と利休の遠心
第十三章
秀吉のわびと
利休のわび
北野大茶湯をめぐって
43.壮大・豪奢への志向とわびへの志向
44.秀吉と利休のわびへの志向
45.冷えわびとなまわび
第2部
倉澤先生に聞く
織部に「閑寂」を忍ばせる
信長のこと
家康と桃山のこと
あとがき
年表
第一部図版目録